再び男声合唱の楽しみを!

山崎 道夫(S27,1B)

 18年ぶりに故郷の札幌へ帰ってきて間もない4年前の9月初め,勤め先の近くの本屋で「北大合唱団OB演奏会,1990年 9月23日」のビラを見かけた。当日まで半月そこそこ,長年まともに歌っていない気後れも手伝って,この時は家内と共に観客席で聞かせてもらうことにした。懐かしさが蘇ってきた。その後,OB会のメンバーに加わって,現役の発表会の賛助出演や市民合唱祭への参加などでスロー発進。

 それにしても,今回のステージは口をパクパクでお茶を濁す訳には行かない。曲目には,「野は美わし」「婆やのお家」「野ばら」など,40年以上前から愛唱歌として親しまれてきた所謂ナツメロもあるが,私にとって初めての曲も少なくない。“歌を忘れかけた○○○○”の身になれば結構難しい。カラオケは譜面で確かめないと気がすまないのだが,もともとリズム感が鈍い上にブランクが長すぎた。調子笛片手に,大袈裟にいえば四苦八苦の体だったが,ナナカマドが色づき始めた頃からは何とかなるサ,と開き直っている。

 考えてみると,ハモる事の美しさに目ざめたのは小学校1〜2年頃だったから,当時としては遅くはない。音楽好きの母と姉2人の4人での重唱や輪唱に時間を忘れたのを思い出す。曲は外国の民謡や日本の唱歌といくつかの賛美歌などだった。旧制中学ではもともと音楽は除け者扱いであったが,特に戦争が激しくなった中学3〜4年は重要教科すら満足に進まなくなっていた。

 戦後の昭和21年夏,当時住んでいた桑園界隈で知人を中心に合唱を始めようということになった。音叉1本でも楽しめる合唱は,若者の開放感と共に当時大はやりだった。混声十数名の小さなグループで特に指導者もいなかったが,近所の幼稚園を借りて,自由な雰囲気の中で毎週歌いまくった。時には夜中までも……。

 それやこれやで,予科(旧制高校)から学部卒業まで都合6年間エルムの学園に通いながら北大合唱団に在籍したのは終わりの2年間のみであった。しかし,ここで男声合唱の魅力,独特のハーモニーと圧倒的な迫力を体験することになった。考えてみると,丁度この頃が新しい発展段階を迎えた時期だった。学校音楽界の重鎮であった小泉正松氏の指揮により,東京日比谷公会堂で全日本合唱コンクールに出演したのも良い勉強になった。卒業した昭和27年の秋,同合唱団現役の第1回演奏会が持たれたのであった。

 今や声の荒れは争えず,その上速いテンポが苦手だが,歌心は健康法の一つ。これからの人生の一頁に再びMaenner Chor(男声コーラス)のハーモニーを加えたいと思っている。

(第5回OB演奏会プログラムより転載)

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